親が認知症になったらどうする?時間とお金編

できるだけケアはしたいけど

「親が認知症にんちしょうになったら」と考えたとき、ものすごく気にはなるけれど、なかなか話題にしづらい時間とお金の問題在宅介護では自分の時間がとれなくなるし、かといって訪問介護やデイサービスに頼りすぎるとお金が心配。できる限りのケアはしたいけれど、それでも限界があるのが認知症介護にんちしょうかいごです。症状が進行すればするほど、家のなかでのケアは行いづらくなります。自分が認知症にんちしょうであることを認めたくない方は多いですが、それもきっと家族に時間やお金の負担をかけさせたくないと思うから。そうすると、症状が出始めても病院に行かず、急激に進行してしまうことも。早めに認知症にんちしょうの症状と具体的ぐたいてきなケアにかかる時間とお金を理解して、不安を取り除いておきましょう

気になるお金と時間の問題

国内のアルツハイマー型認知症の医療いりょう介護かいごに要するコストは、家族による無償むしょうの介護を金額に換算した額を含めると、最大で年間12兆6000億円を超えるとの推計値が報告されています。この論文*から、各世帯かくせたいでどれだけお金や時間の損失があるかを検討していきます。今回は認知症の50~75%を占めるアルツハイマー型認知症を扱います。コスト・損失という言葉遣ことばづかいになってしまうことで気分を害してしまう方もいらっしゃるかもしれませんが、ご了承いただければ幸いです。

かかる費用について

まず医療費いりょうひについては1人当たり年間29万7,524円との推計すいけいがでており、さらに公的介護費こうてきかいごひは、1人当たり132万5,862円と算出されています。これらを合計すると、約160万円となります。アルツハイマー型認知症の方は年間で平均約160万円の医療費いりょうひ介護費かいごひがかかるとの計算です。ただ利用者目線りようしゃめせんでは、医療保険いりょうほけん介護保険かいごほけんを利用できることから、費用はその1割~3割抑えることが可能です。次にインフォーマルケアコスト、家族が無償むしょうで行うケアに経済的な価値をつけるとしたらどれくらいかを検討します。インフォーマルケアコストはアルツハイマー型認知症の人1人当たり187万7,077円とされています。このインフォーマルケアコストは、家族が負担ふたんする費用という意味ではなく、家族のケアのすべてを外的なサービスに依存するとしたら、という仮定かていの下で算出さんしゅつされた金額です。

失う時間について

また、介護に伴って失うものがあります。それは時間です。時間を失うことにより、仕事にも影響えいきょうがでることがあります。その影響度えいきょうどをお金に換算してみましょう。欠勤けっきん時短勤務じたんきんむ就労時しゅうろうじ能率低下のうりつていかも含めた損失、介護のための離職りしょくによる損失・家事労働の生産性低下せいさんせいていかによる損失を合算すると、アルツハイマー型認知症の人1人当たりでは年間で42万8,827円となりました。別の研究**では次のようなことがわかっています。6割以上の人が介護によって仕事や家事に影響が出たと答えており、1日のうち介護に要した時間では、見守りや意思疎通など認知症特有のケアに約3時間費やされ、3500円前後の損失と見込まれています。これを年間にすると、約128万円となります。

簡単にまとめてしまえば、支出が約160万円増加し(保険適用ほけんてきようは検討外)、収入が約40万円程度減少するというイメージです。ただこの金額は家族によるケアがあることを前提としているので、そのケアを全て外部に委託いたくすると、収入の減少分が0になり、反対にいままで無償むしょうで行われていた約120-180万円のコスト(保険適用ほけんてきようは検討外)がかかるという計算になります。このバランスのなかで、どの程度家族がケアをして、どの程度外部にケアを頼るかを決める必要があります。

介護保険制度かいごほけんせいどとは

外部のケアをうまく活用していくためにも社会制度しゃかいせいどの理解が不可欠です。ここでは介護保険制度かいごほけんせいどについて簡単に説明します。介護保険制度かいごほけんせいどとは、要介護認定ようかいごにんていまたは要支援認定ようしえんにんていを受けたときに1割~3割(年金収入等の前年度所得ぜんねんどしょとくによって負担の割合は変化)の自己負担で介護サービスを受けられる制度のことです。サービスを受けられるのは原則として65歳以上(第1号被保険者)のみです。常時の介護までは必要ないが身支度みじたくなど日常生活に支援が必要な要支援状態ようしえんじょうたいや、寝たきりや認知症などで常に介護を必要とする要介護状態ようかいごじょうたい受給対象じゅきゅうたいしょうとなります。ただ、64歳以下(第2号被保険者)でも、初老期の認知症、脳血管疾患のうけっかんしっかんなどで要支援・要介護認定を受けた場合はサービスを受けることができます

要支援認定ようしえんにんてい地域包括支援ちいきほうかつしえんセンターを窓口として認定が行われます。この認定があれば、予防給付よぼうきゅうふという形で介護予防サービスを受ける際の負担額が減少します。さらに症状が進んできた場合は、居宅介護支援事業所きょたくかいごしえんじぎょうしょにて要介護認定ようかいごにんていを受けましょう。介護保険かいごほけんには、介護度に応じた支給限度額しきゅうげんどがくがあります。この範囲内でケアマネジャーがケアプランを作成するため、まずは窓口に相談するのがよいでしょう。

時間とお金の問題はなかなか口に出しづらいものですが、社会保険制度しゃかいほけんせいどを活用すれば自己負担額じこふたんがくをおさえながら適切なケアを受けることができます。認知症の疑いが出始めたら、むやみに恐れを抱くのではなく、早め早めの検査と専門家への相談をすることがおすすめです。

*出典:Economic Burden of Alzheimer’s Disease Dementia in Japan|Journal of Alzheimer’s Disease ol.81, no.1, pp.309-319, 2021
**出典:アルツハイマー型認知症の本人とその家族が経験する経済的な機会損失に関する研究|老年精神医学雑誌21/11/1237-1251