認知症高齢者との関わり方は?穏やかに向き合うために

認知症の方と接するには

認知症と聞くとなんだか怖い病気に聞こえませんか?話が通じない、しっかりしていた人でも意味のわからない行動をとってしまう…特に親が認知症になったときには、親の気持ちが分からず、いままで積み重ねた関係性がこわれてしまったように感じ、ついつい自分を追い込んでしまう方も少なくありません。そうなる前に、認知症という症状を正しく知る必要があります。彼らの行動への誤解が少なくなり、余裕を持って接することができるよう、認知症=痴呆ちほう、認知症=正常な人間には戻れないといった恐怖のイメージを払拭ふっしょくしていきましょう。

知っておきたい中核症状ちゅうかくしょうじょう周辺しゅうへん症状

認知症の症状には、認知症の方に必ず見られる「中核症状」と、中核症状に本人の性格や環境の変化が加わって起こる「周辺症状(行動症状こうどうしょうじょう心理症状しんりしょうじょう:BPSD)」があります。そもそも認知症とは、認知機能に障害が生じ、日常生活や社会生活に支障が出る状態を指します。年齢を重ねて、認知機能に衰えが出てくるのは当然のこと。中核症状である記憶障害きおくしょうがい見当識障害けんとうしきしょうがい(時間や場所など今置かれている状況を正しく認識できなくなること)は避けられない事態ともいえます。そのうえでできなくなることが増えた不安や周囲の扱いによる自尊心じそんしんの傷つきがますます心理状態を悪化させ、自己防衛じこぼうえい反応が働いた結果あらわれる症状が、周辺症状です。

そのため周辺症状は人それぞれ異なります。本人の性格、周囲の環境が総合的に働いた結果なので、時間や接する相手によっても変化します。大きく分けると症状は2つで、妄想や抑うつなどの心理症状と、徘徊や暴力などの行動症状が見られます。症状の因果を全て解き明かすことは困難こんなんですが、認知症の人の過去やいま感じていることに共感することができれば、周辺症状は周囲の人の協力で落ち着かせることができるとも言われています。

たとえば徘徊といってもその理由は様々です。主に理由は2種類で、目的があるものと強い欲求によるものとに分けられます。まずは何のために外へ出たのかを当事者の気持ちになって考えてみることが大切です。たとえばアルツハイマー型の徘徊では、外出する目的はあったのに、途中で目的地が分からなくなる、目的自体を忘れてしまう、見当識障害によって場所が分からなくなり家に戻ることも難しくなったという流れで生じていることがあります。また元々の職業が警察官だとしたら、パトロールの時間と勘違いして出かけているというケースもあります。いずれにせよ、意味なく歩き回っているというイメージを持つのではなく、中核症状と現在の状況・心境しんきょうが重なり合って起きていることだと理解する必要があります。

接し方せっしかたの具体的なポイント

認知機能が落ちている、という中核症状に寄り添って接し方を考える必要があります。毎日の介護のなかで心の余裕がなくなってしまうこともあるかとは思いますが、自分の能力が落ちて不安を感じ、余裕がないのは認知症の高齢者も同じ。周辺症状がひどいと「私の言葉は通じない」「もう頭がおかしくなってしまったも同然」と諦めてしまいそうになりますが、彼らに見えている世界を想像して接することでおだやかに過ごすこともできます。具体的なポイントを3つ紹介します。

①笑顔で、ゆっくり話す

一度に長々と話をすると混乱することがあります。認知機能がおちると、言葉を言葉として整理して認識することが難しくなるからです。文章は、なるべく、短く、わかりやすくを心がけましょう。例えば…「お腹が空いたので魚を焼いて夕ご飯にしましょう」ではなく、「お腹が空きましたね」「もうすぐ夕飯ですよ」「お魚を焼いて食べましょうか」にすると意味をきちんと理解することができます。

②おこらない・せかさない・言い返さない・否定しない

大切なことは、「元気な頃の姿」と「今の姿」を比べないということです。今まで出来ていたことがだんだん出来なくなる自分を受け入れられないのが、認知症の高齢者の気持ちです。その結果、不安な気持ちを上手に伝えることができなくて、いつもと違う行動をとることが増えます。間違っているとか、なんでできないの?などのことばで責めないように。その人の世界に入ることが大事です。間違っていても否定せず、まずは受け入れましょう。

③できたことをほめる・良いところを見つけてほめる

人は褒められると嬉しくなります。それは認知症の方も同じ。められると嬉しいのです。褒めるところをしっかり見つけて、伝えてあげてください。「話が面白くてとてもたのしかった」とか、「元気な声をきいて嬉しかった」とか、些細ささいなことでかまいません。認知症の方は、ほめられて嬉しかったり楽しかったなどの感情はしっかりと残ります。できることを見つけて褒めると、まだまだ自分も役に立つ、役割があるという気持ちが意欲となり、心を動かし、体を動かします

常日頃つねひごろ接していると、ついつい余裕をなくしたり、将来が不安になったりで認知症の方を追い込んでしまうことがあります。そんなときは自分が認知症だったらどうしてほしいか?という立場に立ってみてください。中核症状によって、今いる場所・時間が分からなくなり、出来ていたことも出来なくなる不安、それに伴う家族に迷惑をかける自分への失望。そのなかで支えになるのが周囲の理解と笑顔です。そんな想像ができると、相手を思う気持ちや敬う気持ち、感謝したい気持ちが自然に湧き出てきませんか?「ありがとう」の一言を忘れずに接することができるといいですね。