大切な人が認知症になったとき
たとえば自分の親が認知症になったとき、家族は理想のケアをしようと自分を追い込み過ぎてしまうことがあります。しかし、認知症ケアに悩みはつきもの。症状が進むにつれて、本人がケアを受けているという状況自体を認識できなくなっていくのです。そうすると、薬を飲む、入浴させるといった本人のための行動も聞く耳を持ってもらえず、場合によっては周辺症状である被害妄想などの影響で、ケアしている家族を悪者だと思い込むなんてこともあります。そんなときは自分1人で抱え込むのではなく、持続可能なケアにできるよう、周囲の施設や制度を上手に活用することが大切です。
地域包括支援センターを頼ってみる
認知症ケアのことで困っているときは、まず地域包括支援センターを訪ねてみるのがおすすめです。地域包括支援センターとは市区町村が設置している総合相談窓口のこと。対象地域に住んでいる65歳以上の高齢者、またはその支援のための活動に関わっている方が利用できます。具体的には以下のような役割があります。
①介護予防ケアマネジメント
高齢者に対する介護予防ケアプランの作成などを行い、介護予防サービスを紹介し、参加を促しています。
②総合相談・支援
各種相談を幅広く受け付けて支援しています。在宅介護の悩みに対しても、さまざまな視点から一緒に解決策を考えてくれます。
③権利擁護
高齢者に対する詐欺や、悪徳商法などの消費者被害へ対応するほか、高齢者虐待の早期発見や防止に努めます。成年後見制度の手続き支援も行っています。
④包括的・継続的ケアマネジメント
在宅・施設を通じた地域連携の体制づくりや介護支援専門員への支援を行います。ケアマネジャーを対象とした研修会を実施しているほか、ケアマネジャーのネットワークづくりの支援なども行っています。
地域包括支援センターは認知症ケアに限らず、生活や健康の問題に関して相談することが可能です。要介護認定の申請や、介護サービスの手続き、介護サービスの事業所の紹介など、介護サービスにかんする最初の窓口としても機能しているため、まずは地域包括支援センターを訪れてみるのがいいでしょう。相談は一切無料です。(ただし、紹介されたサービスを利用するときは費用がかかることがあります。)
すでに要介護認定を受けていてケアプランの相談などを希望する人は、居宅介護支援事業所を訪れましょう。ケアマネジャーが常駐しており、介護認定を受けた人に対してケアプランの作成や、ニーズに合った介護サービスを受けられる事業所の紹介をしてもらうことができます。
地域包括支援センターの専門家
地域包括支援センターでは、保健師・社会福祉士(ソーシャルワーカー)・主任ケアマネージャー(介護支援専門員)の3職種が、それぞれの専門性を活かして業務を行っています。ここではそれぞれの役割を紹介します。
①保健師
保健師は、病院や保健所と連携しながら、高齢者やそのご家族から受ける医療・介護の相談に対応する職種です。保健指導や健康管理を行います。地域包括支援センターでは主に介護予防ケアマネジメントを担当し、身体機能の悪化や要介護状態になることへの予防対策などを行っています。
②社会福祉士(ソーシャルワーカー)
社会福祉士は社会福祉の専門職であり、地域包括支援センターにおける相談窓口として、総合相談や権利擁護に関する対応を行っています。介護保険制度の対象者や家族からの相談を幅広く受け、一緒に解決方法を検討します。自宅や施設などへの利用者訪問や高齢者独居世帯・高齢者夫婦世帯の安否確認など地域の包括的なケアについても役割を担っています。
③主任ケアマネジャー(介護支援専門員)
主任ケアマネジャーは一定の研修を受けたケアマネジャーの上位資格保持者のことを指します。地域包括支援センターでは包括的・継続的マネジメントを担います。また介護サービス事業者と連携を図りながら地域で活躍するケアマネジャーへの支援を行ったり、地域ケア会議の開催や支援困難事例などへの指導を行ったりもしています。
少子高齢化が進むなかで、家族だけで高齢者を支えるというのも難しいもの。厚生労働省は2025年に向け、高齢者の自立支援の目的のもと、可能な限り住み慣れた地域で暮らし続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進しています。行政のサービスを十分に活用して、持続可能なケアを探っていくとよいでしょう。